指差呼称のためのボイストレーニングの勧め
自分の声に自信がないと、指差呼称で声を出すことが億劫になります。
ボイストレーニング(以下ボイトレ)をしてよい声が出せるようになると、発声が楽しく、指差呼称を積極的に行いたくなるでしょう。
声の悩みには、いろいろなものがあります。声が小さい、活舌が悪い、こもった声、聞き取りにくく、聞き返されやすい声、耳障りで印象の悪い声などなど。
本記事では、筆者の体験をベースに、よい声を出すためのボイトレと、その効果について紹介いたします。
目次
1.この記事の対象
この記事は、以下のような方に向けて書かれています。
- 指差呼称で声を出すのが苦手だと思っている方
- 自分の声が嫌いな方
- 指差呼称の定着を目指して指導している方
2.ボイトレを始めたきっかけ
筆者の悩みは、話すと喉がカサカサしてきて、咳込んでしまうことでした。ほんの数分話す場合でも、咳が出てスムーズに話せない。昔からそうだったわけではないので、加齢のせいかもしれませんが、なんとかしたいと思っていました。
2024年の春に、ボイトレに取り組もうと思い、選んだのが演技のクラスでした。
なぜ、演技?と思われるかもしれません。ボイトレで多いのはまず歌系、次にビジネス系です。歌系にしなかったのは、歌と発話はちょっと違うかもと思ったから。ビジネス系は堅苦しい感じがしたからです。舞台を観るのも好きだし、歌舞伎役者や演劇の俳優のように、いい声が出せるようになるのではと思い、演技レッスンを選んだのでした。
先生は、俳優・ミュージカル映画監督の角川裕明さん。隔週開催で90分、5月から10月まで半年間、学びました。
残念なことにこのレッスンがなくなってしまい、今は本などを参考に自主トレーニングをしています。声の改善は道半ば、伸びしろしかない状況です。
3.ボイトレの効果
ボイトレ経験者へのインタビューによると、声がよくなると以下のようないいことがあるそうです(和田2008)。
- 相手から分かりやすいと言われるようになった
- 人と接するときに苦手意識がなくなった
- コミュニケーション能力がアップした
和田麻里:相手を必ず惹きつける声の磨き方、日本文芸社、2008
これらは納得できる効果です。
さらに、こんな効果まであるそうです(和田2008)
- 体調を崩すことが少なくなった
- やせられた
- 快食、快眠、快便になった
- 寝つきがよくなった
- 腹筋がついた
- 姿勢がよくなった
上記の効果はちょっと意外ですが、喉の炎症から風邪になる可能性が減るとか、呼吸が深くなって代謝がよくなるとか、よく考えればありそうな効果です。
それらの効果を筆者はまだ実感できていませんが、声が響くと気持ちいいと感じることはあります。
会社の敷地が広く、野外を移動することも多いので、人がいないときは歩きながら発声練習をしています。気持ちいいです。
指差呼称を大きな声ですることで、気持ちよくなって、体調や減量などにも効果があったら、一石何鳥になるのでしょうね。
4.発声の基本
4.1 発声の基本(姿勢)
良い声を出すための最初の基本は、「姿勢」です。
悪い姿勢では悪い声が出やすいようです。首から上にある頭の部分を身体の真上に立てるようにします。スマホ首のように、前にずれているのはいけません。たぶん、首を支えるために、喉に力が入るのでしょう。そして力まず、ゆったりと立ちます。これは後に出てくる「響き」に関係するようです。
レッスン場はバレエスタジオのような環境で、最初に「準備運動」をしました。肩を回したり、ジャンプしたり、前屈や側屈したりです。体をほぐして温めることも基本と言えそうです。「姿勢」や「呼吸」や「響き」の準備運動なんだと思います。
座っているときの姿勢については習いませんでしたが、基本は同じはずです。
筆者は、姿勢についてはあまり問題ないようでした。
発声の基本(呼吸)
声は、吐く息が声帯を震わせてできるものですので、「呼吸」が大切です。
腹式呼吸がよい、というのは昔からよく聞いていたのですが、なかなかピンと来ていませんでした。調べてみると、よい発声のための呼吸については統一見解がなく、さまざまな考え方、実践方があるようです。
ここでは、筆者が習った方法について紹介いたします。
まずは、吐く方を意識して、吸う方は考えない。
息を吐き切ったら、自然に空気が入ってきて結果的に吸うようにする。
そのために、スッ スッ スッ スッ とリズムよく吐く練習や、長く吐く深呼吸などをレッスンしました。
次に、空気を入れる場所なのですが、お腹の前と後ろ、ドーナツ状に空気を入れるイメージだそうです。
実際には、お腹の部分は横隔膜によって内臓が下に押し出されて膨らんでいて、空気は縦に長くなった肺に入っているのですが。
そして吐く息を長くするために、凹もうとするお腹に対し抵抗する力を加える。
すぐには凹まないように抵抗すると、声が強く大きくなるそうです。これは特に難しく、まだまだ安定してはできません。
発声の基本(リラックスして響かせる)
吐く息が声帯を震わせて声が作られますが、これはギターの弦の振動に例えられます。
ギターのボディには大きな空洞があり、そこに弦の振動で生じた音が増幅されてふくよかで大きな「響き」となります。
人の身体では、まず口の中の空洞で響かせます。
口の中の奥の方は柔らかくできていて意識的に広げることができます。声を口の後ろ、上、前の方で響かせると、違った響き方になります。
この違いは、最初はさっぱり分からなかったのですが、レッスンを繰り返すうちに、次第に理解できるようになりました。
さらに、鼻の方にも空洞があり、筆者の場合はここを響かせるようにすると声がよくなるとのことで、練習を重ねました。響いているかどうかは、指先で鼻のあたりを触ることで確認します。
たまたまイヤホンをしながら発声練習をしてみたときに、頭の中で響いている箇所がよくわかることに気づきました。耳栓がいいのかもしれません。
頭だけでなく、胸に響かせることもできます。
最初は、低い声で試すと胸での響きが分かりやすかったです。次第に、より高い音でも響くように、工夫することを今も続けています。
響くためには、リラックスすることが重要です。
ギターのボディを押さえると響きません。体に力が入ると、力むと固くなって響かないのです。
下あごは力を抜き、喉を絞ってはいけません。
筆者の発声は、喉に力が入って、絞り出す方法だったようです。そのため、声帯に負担が掛っていたのでしょう。リラックスして響かせるよう練習していますが、緊張する場面では、まだまだリラックスすることは難しいです。
声の基本(ベクトル)
声をどこに届けるか、その「ベクトル」を意識することも発声には重要です。遠くの人なのか、隣の人なのかで、声は違ってきます。
指差呼称は自分に向けて発声するものですので、ベクトルは自分に向けます。
ただ、指差呼称には、周囲の人に聞かせる副次的な目的がある場合もあります。
鈴木(2020)は、「他者に自分が注意すべきところを自覚していることを知らせ、さらには未熟練者に気をつけるべきポイントを知らせる」効果について言及しています。このような効果を期待するのであれば、声を届けるベクトルは自分だけでなく、近くにいる他者に向けるべきです。
それは呟きとは異なり、ある程度の音量、明確な活舌のものになるでしょう。
鈴木綾子:ジョイントアテンションと指差喚呼、JR総研人間科学ニュース、Vol.229、2020
5.ボイトレの導入方法
指差呼称のためにボイトレを導入する方法について、2つ提案いたします。
1つは、発声が苦手で、改善できればと思っている個人が、自主的にボイトレを導入する方法です。
筆者は演技のクラスを選びましたが、歌やビジネス関連であれば、ボイトレを受けられるクラスや機会はたくさんあります。勇気を出して一歩を踏み出してください。
もう1つは、会社でボイトレの講師を呼んで、ボイトレ研修を行う方法です。
発声が楽しいからいい声になる、大きな声になる。指差呼称を、個人個人が自主的に、すすんで行える後押しとして、会社でボイトレを推奨してほしいと思います。
ただし、確認のための指差呼称にいい声や大きな声は必須ではありませんので、大きな声での指差呼称を全員のゴールに設定して、強制などはしないでくださるようお願いします。
6.最後に
本記事では、筆者の体験をベースに、よい声を出すためのボイトレの効果と、発声の基本について紹介させていただきました。指差呼称を定着させる方法の1つとして、ボイストレーニングをおすすめします。
ボイトレによって、自分の声に自信が持て、発声が楽しくなると、指差呼称を積極的に行いたくなります。
最後に1つだけ、注意しておきたいことがあります。
指差呼称をする際には発声の仕方に注意を向けたりせず、確認対象のことだけに注意を向けてください。いい声を出そうと意識してしまうと、肝心の確認が疎かになる恐れがあります。
ボイトレだけで指差呼称を定着させることは難しいです。ぜひ、「指差喚呼効果体感ソフト」を活用して、指差呼称のエラー防止効果を体感してもらう教育を行い、職場での定着を達成してください。
指差呼称の定着のために
指差呼称がエラーを減らすことは実験により確認されていますが、その効果を実感することがしにくく、形骸化が危惧されています。
公益財団法人鉄道総合技術研究所が作成した「指差喚呼効果体感ソフト(SimError 指差喚呼編)」は、指差喚呼(指差呼称)の5つのエラー防止効果を実際に体感し、その重要性について理解を深めることで、指差呼称の定着を図るための教材です。
ぜひ活用して、指差呼称の形骸化を防いでください。