指差呼称のやらせすぎは危険です ~最適な頻度の決め方~
指差呼称をすべき回数が多すぎてうんざりしていませんか?
腕を振って、声を出す運動ですので、何もしない状態よりもカロリーを使い、確実に疲れは溜まります。
人は疲れると注意が散漫になり、ヒューマンエラーが増える傾向があります。
多すぎる指差呼称は逆効果で、危険になることがあります。
本記事では、もっとも安全度を高める、指差呼称の実施頻度の決め方についてご提案いたします。
目次
1.この記事の対象
この記事は、以下のような方に向けて書かれています。
- 指差呼称をする場面が多すぎて問題だと思っている作業者の方
- 指差呼称をする場面が多すぎて問題だと思っている管理者の方
- 指差呼称をする頻度を減らしたい作業者の方
- 指差呼称をする頻度をどう決めればいいか困っている管理者の方
2.指差呼称を頻繁にさせた研究事例
指差呼称 を頻繁にさせ過ぎると、確実に疲れます。
工場の従業員30名に通常の3倍指差呼称をしてもらったところ、口と足の疲労度は上がりませんでしたが、腕と目と精神の疲労度が上がったそうです。
1) 数土 武一郎、清原 康介:製造作業における「指差呼称」法と疲労度の関連、人間生活文化研究、Vol.30、pp.438-443、2020
また、パソコン上に出るターゲットを見て、1時間に60回全力で指差称呼をさせた実験では、自分のペースで指差呼称をするグループよりもエラーが多いことが示されました。全力とは、腕をまっすぐ伸ばし大きな声を出すことでしたので、疲労によりエラーが多くなったものと考えられます。
2) 増田 貴之、重森 雅嘉、佐藤 文紀、芳賀 繁:指差喚呼のエラー防止効果の検証、鉄道総研報告、Vol.28、No.5、pp.5-10、2014
3.指差呼称の頻度が高すぎると
研究で行ったような高頻度の指差呼称は現実離れして極端ですが、たくさんの確認作業がある場合、1つ1つに指差呼称をすると、作業負荷が高くなってしまいます。
作業負荷が高すぎると、エラーを起こしやすくなります。
ただ、同じ作業と同じ指差呼称をしていても、ベテランと初心者では作業負荷が異なります。ベテランならある程度の頻度の指差呼称でも問題なくても、初心者には作業負荷が過度になりやすくなります。
一方、作業負荷量が低すぎても、退屈で他事を考えたり眠くなったりして危険です。その際には、指差呼称をすることで負荷を上げ、適度な負荷量に調整することも可能です。
下の図は、指差呼称を伴う「ある作業」において、ベテランと初心者で、同じ作業に対してどのくらいの作業負荷量になるかを模式的に示したものです。作業によって、また頻度の高低の程度によって模式図は異なったものになりますので、あくまで1例と思ってください。
ベテランは同じ作業でも負荷が低く、初心者は高くなります。
模式図の作業においては、ベテランにとっては容易すぎて、作業負荷量が不足していますので、指差呼称は高頻度に行った方が作業負荷量が適度になり、より安全になります。
しかし初心者にとっては、同じ作業でも作業負荷量が大きいので、指差呼称が高頻度になると、作業負荷量が過度になり、エラーをしやすくなってしまいます。
4.指差呼称の頻度の決め方
理想は、一人ひとりにあった回数、頻度で指差呼称をすることです。
しかし、自分の判断で決めることになると、つい疎かになってしまったり、逆に無理をしてしまったりすることもあるでしょう。そのため、ベテランから初心者まで多数の作業者の意見を聞き、指差呼称をする作業を確定し、頻度を決めることが適切でしょう。
その際、指差呼称を絶対にする作業を決めるだけでなく、余裕があれば行うことを推奨する作業も取り決めてはどうでしょうか。必要最低限の安全の確保をした上で、さらなる安全を目指すことができます。
組織として、また個人々が、疲労につながる作業負荷量と指差呼称の実行とのバランスを取り、安全性を高めることが重要です。
指差呼称の定着のために
指差呼称がエラーを減らすことは実験により確認されていますが、その効果を実感することがしにくく、形骸化が危惧されています。
公益財団法人鉄道総合技術研究所が開発した「指差喚呼効果体感ソフト(SimError 指差喚呼編)」は、指差喚呼(指差呼称)の5つのエラー防止効果を実際に体感し、その重要性について理解を深めることで、指差呼称の定着を図るための教材です。
ぜひ活用して、指差呼称の形骸化を防いでください。