指差呼称か指差喚呼か ~用語バリエーションを考える~
産業界の労災防止などで使われる、指を差して声を出す安全確認動作をあなたはどう呼んでいますか?
「指差呼称」と呼ぶ人とか、「指差し確認」と言う人、いやいや「指差喚呼」でしょうと言う人もいます。
同じ会社や同じ業界だと皆が同じような用語を使っていることが多いですが、会社が違ったり、業界が違ったりすると、このような用語の違いが浮き彫りになってきます。
ここでは、「指差呼称」「指差し確認」「指差喚呼」などの名称の使われ方について、データに基づいて考えてみたいと思います。
目次
1.この記事の対象
この記事は、以下のような方に向けて書かれています。
・指差呼称や指差喚呼、呼び方が違うのが気持ち悪い方
・指差呼称と指差喚呼でどこかに違いがあるのではと思っている方
・指差し確認は指差呼称と同じなのかを知りたい方
2.検索結果件数からみた用語の使用頻度について
WEB上にある用語の数を調べることで、各用語の使用頻度を調べてみました。
「指差呼称」などの用語で検索した結果、どれだけのサイトが見つかったかを示す数字が検索結果件数です。
Googleを用いて、各用語の検索結果件数を調べました(調査方法の詳細は文末に注として記載しました)。
結果を図1に示します。
図1 指差呼称の用語バリエーションごとの推定検索結果件数(Google)
もっとも検索結果件数が多い用語は「指さし呼称」でした。平均185件で標準偏差4.3、最多は194件最少177件でした。
これらの用語は前半の指を差す部分と、後半の声を出す部分との組み合わせで構成されています。前半には「指差+」「指差し+」「指さし+」「指差確認+」の順で多く、後半は「+呼称」「+確認」「+喚呼」「+称呼」「+唱呼」の順で多い結果でした。その組み合わせを図2に示しました。
図2 指差呼称の用語バリエーション(前半後半組み合わせ)ごとの推定検索結果件数(Google)
前半の用語をみると、
「指差+」ではどの後半の用語も比較的多く検索されています。
「指差し+」は「+確認」が多く、「+称呼」「+唱呼」は少なくなっています。
「指さし+」は「+呼称」が多く、「+喚呼」「+称呼」「+唱呼」は少なくなっています。
「指差確認+」は「+喚呼」が多くなっています。
一方、後半からみると、
「+呼称」は「指さし+」が多く、他も比較的多くなっています。
「+確認」は「指差し+」が多くなっています。
「+喚呼」は「指さし+」だけが少なく、「指差+」と「指差確認+」が同じくらい多くなっています。
「+称呼」は「指差+」が多く、他は少なくなっています。
「+唱呼」は、ほとんどが「指差+」でした。
3.「+呼称」「+称呼」について
「呼称」と「称呼」は意味的には同じです。
辞書的に「呼称」は「名を付けて呼ぶこと、称呼」、「称呼」は「名前を呼ぶこと、呼称」です(デジタル大辞林)。
「+呼称」の検索総数は480件、「+称呼」の総数は検索225件で、全体としては「+呼称」の方が倍以上多く使われています(図2)。
前半との組み合わせでみると、「+呼称」は「指さし+」が多く、「+称呼」は「指差+」が多くなっています。つまり、「指さし呼称」と「指差称呼」が多い結果でした。
「指さし呼称」は第1位で185件、「指差称呼」は第4位で110件、その差はやや近づいています(図1)。
しかし同じ音読みができる「指差し呼称」が3位で126件ありますので、「指さし呼称」「指差し呼称」を合わせると、圧倒的に「指差称呼」の用語より多く使われていることになります。
4.「+確認」という用語について
「確認」を辞書でひくと「はっきり認めること。また、そうであることをはっきりたしかめること」とあります(goo国語辞典)。
「確認」の言葉には声を出すか否かの情報は含まれていません。
では、「指さし確認」は声を出して確認しているのか、出さないで確認しているか、どちらなのでしょうか。
「指さし確認」の検索上位30件の記事(以下、2023年2月8日)をみたところ、声を出さない場合を示唆するような記述はありませんでした。
しかし、声出し確認とand条件で検索すると129件の記事があり、声出しとは別のものとしての記述もかなりあることが分かります。
ちなみに、「指差し確認」を声出し確認とand条件で検索すると154件、「指差確認」を声出し確認とand条件で検索すると32件の記事がありました。
また「指差確認」が前半となり、後半に「+喚呼」「+呼称」「+称呼」がつく用語もある程度存在しています。この場合は、前半は声を出さない確認方法を示していることになります。
以上から、「指さし確認」「指差し確認」「指差確認」は指も使い声も出す「指差呼称」「指差称呼」「指差喚呼」と同じものを指す場合と、声は出さない指差しのみをして確認する用語として用いられる場合とがあることが分かります。
ところで、今回の調査では想定していなかったのですが、「確認」を最後に付ける用語も存在するようです。
追加で調査したところ、「指差呼称確認」59件、「指差喚呼確認」49件、「指差称呼確認」33件、「指差唱呼確認」0件でした。
5.「+喚呼」について
「+喚呼」については、鉄道分野、JRや鉄道総研で多く使われています。
「喚呼」の辞書的な意味としては「大声で呼ぶこと」です(goo国語辞典)。
「喚呼」は大きな声を出すことを強調し、「呼称」は名を呼ぶことを強調していることになります。
「+喚呼」は「+呼称」や「+確認」と違い、「指差し+」が少なく「指差+」が主になっています。その点は「指差称呼」と似ています。
ところで、当社の販売する教育教材「指差喚呼効果体感ソフト」は、公益財団法人鉄道総合技術研究所が研究・開発したものをベースにしています。
前身は国鉄の研究所でしたので、「指差呼称」や「指差し確認」ではなく「指差喚呼」の用語が使われています。
しかし「+喚呼」より「+呼称」の方が広く使われていますので、本サイトでは商品名以外はできるだけ「指差呼称」を使うこととしています。
6.「+唱呼」について
「唱呼」は「称呼」と同じ音ですが、辞書に掲載されていません。
「唱える」と「称える」は同じ意味とされています(デジタル大辞林)。
「指差唱呼」以外はほとんど使われていません。
この用語は昔の論文タイトルにある程度で、現在では他の用語の説明として「指差唱呼とも言う」のように使われる例ばかりです。
7.「指差唱和」について
紛らわしい用語として「指差唱和」について触れておきたいと思います。
「指差唱和」は、作業前にチーム全員が集まって、安全に関する言葉などを指差しながら、リーダーがその言葉を言い、他のメンバーが同じ言葉を唱える(唱和する)ものです。
安全性向上のために、その言葉への意識付けを高め、さらに集団としての意思統一を図るもので、「指差呼称」「指差確認」「指差喚呼」とは異なったものです。
「タッチ・アンド・コール」「安全コール」「安全唱和」などが、「指差唱和」に近い用語です。
8.用語順位の信頼性について
今回の用語順位はGoogleの検索数を元にしたものです。
重複も含めて検索結果をすべて表示した際の結果件数では、用語の順位は異なり、「指差し確認」が1位になっています。
類似の記事頁が多いためと考えられますが、用語の使用頻度として重複を入れるか入れないか、いずれがより真の値に近いかは判断が難しいです。
指差呼称を扱った論文や本などを個人的に検索し、集めているのですが、その87件の中では、「指差呼称」がもっとも高い使用頻度です。
さらに、ユーザーがGoogleで検索する用語を調べるアプリを使って調査した結果でも「指差呼称」が1位でした。
このように、用語の順位は調べ方や見方によって異なり、何が本当に正しいかを判断することは難しいようです。
それぞれの用語は従来から使われてきた経緯がありますから、会社ごと、分野ごとに馴染みのある用語を使い続けていくことがよいのではないでしょうか。
9.まとめ
Googleの検索結果件数から、もっとも高頻度で使われている用語は「指さし呼称」でした。
しかし、調査の対象によって順位は異なりますので、「指さし呼称」が常に一番多く使われているというわけではないことにご留意ください。
また、「指差し確認」など「+確認」の場合は、「指差呼称」「指差喚呼」と同じように声を出す行動をさす場合が多いですが、声を出さない行動をさしている場合もありますので、ご注意ください。
指差呼称の定着のために
指差呼称がエラーを減らすことは実験により確認されていますが、その効果を実感することがしにくく、形骸化が危惧されています。
公益財団法人鉄道総合技術研究所が開発した「指差喚呼効果体感ソフト(SimError 指差喚呼編)」は、指差喚呼(指差呼称)の5つのエラー防止効果を実際に体感し、その重要性について理解を深めることで、指差呼称の定着を図るための教材です。
ぜひ活用して、指差呼称の形骸化を防いでください。
注)検索数の詳細な調査方法
検索用語と完全一致したサイトのみを検索するため、用語をダブルコーテーションで括って検索しました。件数は検索結果を表示する画面の最初のページではなく、最後のページまで確認して最終件数を確認しました。これは、各ページで表示される件数は概算で、ページを進めるにしたがって概算値が正確になり、最終ページでもっとも正確になるからです。
またほとんどの場合、最終ページには「最も的確な検索結果を表示するために、上の ○○○ 件と似たページは除外されています。検索結果をすべて表示するには、ここから再検索してください。」との表示が出ます。似たページを含んだ件数も調査しましたが、今回は似たページを除外した件数を集計しました。
さらに、この最終ページでの件数も概算であるために、直後に複数回検索しても必ずしも一致しません。そこで、20日間の結果の平均値を算出しました。調査期間は2023年の1~2月です。
なお、検索件数の少ない用語では類似用語の検索結果が表示される場合があります。その際は、類似用語を除いて検索しました(たとえば、ふりがなの入った用語のみを検索したい場合には、「“指差し喚呼” -指差喚呼」で検索しました)。