指差呼称の本当に意味のある「やり方」とは(後編)
目次
【前編】はこちら
5.指差呼称の行動を精査する
一般的な例の記述の中で言及してこなかった部分について、ここで解説したいと思います。
まず、「右腕を真っ直ぐ伸ばし、対象から目を離さず、人差し指で対象を指差します。なお、指を差す際、右手の親指を中指にかけた「縦拳」の形から、人差し指を真っ直ぐに突き出すと、指差しが引き締まります。」についてです。以下の4つの項目について考えます。
・「右腕」
・「真っ直ぐ」
・「人差し指」
・「引き締ま」った指差し
1つめの腕を右腕に限定することは、利き手が人によること、作業により自由になる手が異なる可能性があることから、「片腕」や「一方の腕」などの表現が適切でしょう。
2つめの腕を「真っ直ぐ」にすることは、曲がっている状態で止めるよりも、より多くの時間がかかるという点ではエラー防止に有利だと思います。また、対象と指先との距離が近くなることは視線の安定によい方向に影響する可能性があります。これらから対象が遠い位置にあるのであれば、真っ直ぐにすることは推奨できます。
3つめの「人差し指」ですが、一般的に指差すときに使う指であることは確かです。ただ、他人を指差すような場合には失礼にあたるので、その場合には手の平全体で相手を差した方がよいでしょう。
4つめの「引き締ま」った指差しですが、形として引き締まることは分かるとして、それが確認に対しての効果はあるでしょうか。確認への意識を強めるという意味では、あるのかもしれません。力を籠めることで運動強度があがり、覚醒レベルを上げる効果を想定しているのであれば、効果はあるかもしれません。
次に「一連の動作は、左手を腰に当て、背筋をピンと伸ばし、キビキビとした動作で行うことが奨励されています」の部分では、以下がポイントになります。
- 反対の「手を腰に当て」
- 「背筋をピンと伸ばし」
- 「キビキビとした動作で」
1つめの反対の「手を腰に当て」は両手が自由な状況での指差し場面を想定しているようです。確認対象により多くの注意を向けるためには、他の手で作業などはしない方がよいでしょう。その点から、他方の手がつい何かをしないように、腰に当てておくのはよいことと思います。もちろん、どうしても他の手で何かをしながら確認せざるを得ない場面もありますので、腰に当てるのは理想的な状況に限定したものになります。
2つめの「背筋をピンと伸ばし」と3つめの「キビキビとした動作で」は、確認への意識を高めるという意味でしょうか。
これらの記述については、補足的に書かれているように、指差呼称に必須なことではなく、より効果を高める可能性がある事柄と捉えられます。また、他の人が見ていて安心できるような動作になる事柄でもあります。
一方、指差呼称を恥ずかしいと思う人にとって、実行への障壁になる危険性もあります。より負担が大きく、より恥ずかしさを感じやすいからです。あまり理想を押し付けようとすると、より一層行わなくなるかもしれません。
以上のことから、本記事で推奨する指差呼称は実行しやすいもの、最低限の負担で行えるもの、より現実的なもの、シンプルなものを提案したいと思います。
6.提案する指差呼称の「やり方」
以上の検討を受け、指差呼称の本当に意味のある「やり方」として以下を提案いたします。
(0)確認対象・呼称内容を決める
・確認対象が多すぎる場合は重要な確認を絞る
・呼称内容は分かりやすく、エラーを防ぎやすいものにする(1)対象を探す
・確認すること、確認するタイミングを忘れない工夫をする
(2)対象を見る
・しっかり見る
(3)対象に指を差して呼称する
・対象の状態を確認する
・呼称した言葉を聴き、内容を確認する
・視覚と聴覚との矛盾がないか確認する
事前の準備行動として「確認対象・呼称内容を決める」を(0)として入れました。
補足説明として、対象の選び方、呼称内容の選び方についても記述しました。
なお、覚醒レベル、モチベーション、視力については、行動ではないので、ここには挙げませんでした。
次に、「対象を見る」の前に「(1)対象を探す」を追加しました。
補足説明は、確認を忘れたり、遅れたりしないような工夫をすることを書きました。
(2)は「しっかり」は補足説明に回し、「対象を見る」としました。
(3)は指差しと呼称を同列に扱い、「対象に指を差して呼称する」としました。
補足説明は、「対象の状態を確認する」「呼称した言葉を聴き、内容を確認する」「視覚から得た情報と聴覚から得た情報の矛盾の有無を確認する」の3点を挙げました。
なお、再確認のために、もう一度指差呼称をする行動は必須ではないので抜いてあります。時間の余裕がある作業の場合には、再確認の指差呼称を加えた方がよいでしょう。
7.まとめ
指差呼称を「確認をより確実にするために、確認対象に指を差し、確認する内容を口に出す行動」と定義し、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」の安全衛生キーワードに書かれている指差呼称の一般的な手順をベースとして、本当に意味のある指差呼称の「やり方」を提案しました。
ただし、指差呼称をする場面は様々です。
疲れているときは動きも声も小さくし、飽きがきているときは動きも声も大きくするとよいでしょう。
また、他の人に見せて安心してもらう効果を望むのであれば、より見栄えのする姿勢を目指してもいいでしょう。ただし、それが本来の目的である確認に悪影響を及ぼさないかは検討してください。
なお、声を出せないときは指差しのみ、手が使えないときは声のみ、などの状況もあるでしょう。確認の精度を高めるために、片方のみの指差呼称であっても行うことが望まれます。
本記事が、指差呼称の「やり方」と、そのエラー防止効果への理解を深めるお手伝いができましたら幸いです。
そして、自信をもって指差呼称できるようになったり、自信をもって指差呼称の指導ができるようになったりすることを願っています。
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